2014年8月29日金曜日

風の物語


遅い朝食をゆっくりと時間をかけて食べ終わり、小鳥たちのさえずりや蝉の声などを聞くともなしに耳にしながら、心の芯まで脱力して椅子に深く腰をかけていますと、それだけで満足してしまいます。

思い出したように吹き抜けていく高原の風は、軽く体にまとわりついては優しく慰撫して去っていきます。あちらこちらから木々のささやきが聞こえてきます。風が梢をゆらして、まるで会話をしているようであります。しばらくの間、こんな感覚を味わったことがなかったなと思う。
もう少し風が強いと山と山の会話になるのは、秋田の辺鄙な農地にたった独りで約半年の間住みついていた時に感じたことであります。
あちらの山がざーっと波のように呟いたと思ったら、こんどは近くの山がそれに応えるようにささやくのです。それが次々に伝搬して周囲の山々の井戸端会議のようです。今でもあの時の情景をはっきりと思い出すことができます。山々って無口なようですが、しゃべりだすと結構な饒舌なものだということをその時に知ったのでありました。
秋の日の山の中では一陣の風に色づいた木の葉がまるでダンスをするように渦をまいて舞い上がる情景はほとんど車の通らない群馬県と新潟県の間の晩秋の十国峠で目にしました。
そんな私の風にまつわる物語を思い出しておりましたら、もうお昼近くになっておりました。
妻に目をやりますと、いつメール打ちが終わったのかわからないけれども、熱心に読書をしておりました。同じ時間に同じ場所にいても人はそれぞれの感じ方や思いがあるものであります。

本日のやることはゆっくりと温泉に浸かることだけであります。なにせ当初の旅から、療養そして湯治に変更になっているわけでありますから、温泉を省いてしまうとただただボケっとしているだけになってしまいます。それはそれでいいのでありますが、一日に一回温泉に浸かるかどうかでその日の生活が豊かになるかどうかには徹底的な差がついてしまうのであります。
昼食を日帰り温泉の食堂で摂ってもいいのだが、炊事道具も食器も出ているので、スパゲティと中華スープで済ませることにしたのでありました。

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